KANSAI Close-up

HISTORIC KANSAI:伊勢を観るには「御師」にお願いして

伊勢神宮に行った人は多いにちがいない。辞書には「三重県伊勢市にある皇室の宗廟」(『広辞苑』=日本で最も普及している中事典のひとつ)とある。伊勢神宮は古くから大衆的な人気の高い社であり、海外にも、ドイツの建築家ブルーノ・タウトがその社殿を日本的な簡素の美の極致と評したことなどで、広く知られている。
この正月にも、多数の初詣客のお参りがあるであろう。伊勢は神宮の境内も、町中も興味深いところが多いが、なんども訪ねた人は、いちど「御師(おんし)」にお願いするといい。
一般に「御師」とは、ある教えや、その発祥の地などを、ひろく世に知らせる人々のことをいう。伊勢にも多数いた。全国を歩きまわって伊勢の有難さを広めた。初期キリスト教の布教にあたった伝道師をイメージされるかもしれない。
たしかに強い使命感に支えられてはいたが、伊勢の御師の特徴は、ごく一般庶民に近い人々であったことである。したがって、高邁(こうまい)な教義を説くよりは、アットホームな対応の魅力で、「伊勢に行きたい」という思いをかきたてることが多かったように思われる。
その長年の努力で伊勢の人気は高まり、江戸時代、一生に一度は伊勢へと願う伊勢講が全国に生まれた。人々は、日々、費用を積み立て祈りを捧げ、時を選んで団体を組んで伊勢に旅した。その結果、各地の道路や宿泊施設が整い、日本は当時の世界でも珍しい『旅行大国』になった、とする民俗史研究家もいる。
それはともかく現代も「御師」は活動している。伊勢の人気を江戸時代に負けないよう復興させたいと、数年前、地元の商工会議所、観光協会、旅館組合、神宮奉仕会や個人が「ザ伊勢講」という組織を作った。伊勢に詳しい人にボランティアで案内役を依頼したり、歴史のある家々に「まちかど博物館」として開放することをお願いしたりしている。 
「まちかど博物館」について言えば、伊勢の町中の薬種・刀剣・根付・提灯・藤製品・味噌・船舶などを扱う伝統的な家が、その店や作業場などを公開する仕組みだ。
筆者は、陶器と浮世絵の「博物館」を訪ねて、畳敷の古い部屋でコタツにあたりながら貴重なコレクションを見せてもらい、旅情緒を堪能したことがある。
ただ、博物館の人々は日常の仕事をこなしながらの対応なので、訪問時間などを予約したほうがいい。伊勢で、日本人の庶民気質に触れることができるかもしれない。
なお、伊勢神宮は夜間の参拝は禁止だが、大晦日から一月七日朝までは認められている。また、大晦日から元旦の朝まで、境内に大かがり火が焚かれ、神楽が奉納される。(田中準造)



 
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