KANSAI Close-up

HISTORIC KANSAI:初詣−新年の神社参詣−で発見したい、ノーベル賞作家・川端康成の魅力

日本語を学び、その力を磨きたい人にとって、ノーベル賞作家・川端康成の作品に触れたいと願うのは自然な成り行きである。美しい日本語と、日本の心がそこに発見されるはずだからだ。
私の知人で長年、大阪市の高校の英語の教師をしているアメリカ人女性は、川端の『雪国』や『伊豆の踊子』に傾倒している。川端作品を読むきっかけは、数年前の正月、日本人の友人と、大阪の住吉大社に初詣でに出かけたことだった。ほとんどの日本人は日ごろ宗教に無関心に見えるけれども、「初詣で」は熱心に行う。これは、新年早々、近くの神社にお参りし、一年の無事を祈って今後の精進を誓うことである。このため年初の神社は多数の人出で賑わい、若い男女のデートスポットにもなる。
住吉大社は日本最古の神社の一つで、「初詣で客」の多いことでも知られる、毎年三が日(1月1日〜3日)は約三百万人という西日本随一、全国でも2、3位の人出になる。英語教師の彼女は雑踏する境内で小さな石碑を見つけた。「反橋は上るよりもおりる方がこはいものです」と川端作品『反橋』の一節が彫られ、川端の自署がある。反橋とは太鼓橋とも呼ばれる弧状に反り返った橋のことで、住吉大社のそれは特に有名である。
作品では、幼い「私」が母とともに橋を渡る。母はその急な傾斜を、自分で上がりなさい、という。上がったら「大事なお話」を聞かせてあげるよ、と。私は懸命に上る。橋の床に履物をさしこんで滑りを止める小さな穴がいくつも開いている。橋の頂上で母は私を抱きしめ、話をする。それは、5歳の男の子の人生を一変させる話であった。
石碑の言葉に、哲学的な暗示さえ覚えたアメリカ人女性は、高校の図書館で作品を見つけた瞬間、うっとりした。なんと美しい。ひらがなと漢字の取り合わせが視覚的に洗練されている。読破に、当時の彼女は数週間を要したが、その魅力に取り付かれた。
『反橋』は第2次大戦直後の昭和22年(1947)に発表された。肉親の縁に薄く孤独の影を負っていた川端の自伝的な作品とされている。住吉大社の在る大阪・住吉区は川端の生まれ故郷である。21世紀初めての初詣でをすれば、発見があるかもしれない。反橋は鎌倉時代(12〜13世紀)の書物にも記載されているほど古い建造物である。橋床の穴は、靴を履く時代には危険だとして40年ほど前、木の桟で塞がれた。(田中準造)