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[Columns]株式会社洛陽アントレプレナーの挑戦

 高校の授業とかかわって3年目。偏差値教育の弊害が指摘されて久しく、また学校現場ではこの知識偏重教育の負の側面に嫌でも直面させられるが、こうした懸念を払拭する教育実践に直接関与する機会に恵まれた。世界的なネットを持つ民間の経済教育支援団体「ジュニア・アチーブメント日本」の認定を受け、この9月から京都市立洛陽工業高校で始まった「スチューデント・カンパニー・プログラム」(SCP)だ。

 SCPとは実際に1株100円で100株の株式を発行して、資本金1万円の会社を設立。生徒自らが社長以下の役割を決め、製造・販売等の会社活動に取り組む教育プログラム。同高校では9月7日株式会社洛陽アントレプレナーを立ち上げた。アントレプレナーの訳は起業家。社員一人ひとりが起業家精神を発揮して、会社業務に全力で取り組もうと命名した。社是は「We Are Hungry(我々は飽くなき探求者)。経営理念は「モノづくりを通し、かつてないサプライズ(価値)を日々追い求め、発信する」と定めた。

 社員は1、2年生25人。大学進学特別コース「ハイパーステージ」所属の生徒が引っ張る。アドバイザー役の社外取締役は大企業や大学の第一線で活躍する社会人。現在5人いて、取締役会では厳しいチェックの目を光らす。主力製品はLED照明を組み込んだ竹製の行燈。サブ製品は竹炭と竹酢。
 京都には平安時代から竹の文化が根付いている。また全国的に未整備の放置竹林が多いことなどから、「ハイテク竹製品の商品化で資源活用の先進事例を作りたい」(上西未来大社長=ハイパーステージ2年)と事業化を決めた。既に試作品は最先端技術の3Dキャドで製作した。

 活動期間は半年。社長以下社員が10月末までに2回山に入り、竹の伐採に挑戦。竹は火で焙って油を拭き取り、2週間以上天日乾ししないと製品化できない。こうした下準備にも多くの時間と労力が必要だ。それに株主募集、製品のデザイン・技術開発、どこでどう売るか、さらに炭焼きづくり等々、教科学習の合間を縫って奮闘の日々が続く。休日出勤も多く、中にはハードワークに耐え切れず、辞職する社員も。

 ここで改めて考えさせられた。普段の授業では目立たない生徒が俄然輝く場面が少ない。例えば竹伐りであっという間にリーダーになった広報部長補佐。営業部長のプレゼンは誰よりも熱く、説得力がある。話術が一番苦手という社長が理路整然と経営方針を語り、今では誰もが彼のリーダーシップに期待を寄せる。

 一番の収穫は取締役会を中心にした団結力。互いの役割を自覚し、助け合う場面は教科の授業ではまず見られない。そして何より笑顔の表情から余裕と自信が伺えるようになった。
 残念ながら今の学校教育ではテストの点数が一番の価値を持つ。人間の資質、能力は千差万別。にもかかわらず、児童、生徒は「勉強のできる子」と「できない子」の二分類で評価されてしまうのが現状だ。こうした中でSCPは本来の教育が果たす使命、役割の大切さを教えてくれる。

 教育=educationの語源、educeとは「能力を発見する」(ラテン語)という意味。「天はニ物を与えず」という諺を裏読みすれば、人間には誰にもない一物(才能)があると解釈できる。売上目標50万円。「東日本大震災の被災地に利益を寄付したい」(上西社長)という洛陽アントレプレナーの挑戦に期待したい。 (ジャーナリスト佐藤徳夫)

 
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社内会議で事業内容を
熱心に討議する社員たち
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会社幹部がOB総会で
事業概要をプレゼン
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竹林は社員にとって
一番の体験学習の場