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インバウンド京都人気の秘密と課題

 全国の訪日外国人(インバウンド)客が2016年に2404万人を記録した。対前年比21.8%増。3年前と比べ倍増の勢いだ。東京オリンピック開催時の2020年には4000万人達成も夢ではないという。人気の一番手グループは東京、大阪、京都の3都府県だ。中でも大阪と京都で20数%のシェアを誇り、関西人気は訪日客の折り紙付きだ。ジャパン人気の秘密とは何か。その背景を住民の一人として暮らす京都市を例に探ると、見過ごせない課題も透けてみえた。
 
 京都エリアの訪日客シェアは約10%程度。その中核を担う京都市の人口は150万人弱なので、都市規模の大きい東京、大阪と人口対比で単純比較するだけでも、その集客力の高さが分かる。
 京都市内には著名な神社仏閣や町家などの歴史文化遺産に加え、年間1000余のお祭りと数々の歳時があり、伝統工芸、茶華道、香道、さらに京野菜や土産物、着物、京料理の世界と観光資源は多様性に富み、その魅力は尽きない。それに何より自然と一体になった都市環境の良さ。まちを歩けば市の中心部に清流の鴨川が流れ、周囲には緑豊かな山々が広がる。古来より坪庭のある町家を「都会の山居」と称した通り、平成の今も都心の路地の隅々にまで自然を生かした人々の暮らしが息付き、訪問客の心を惹きつけて離さない。
 
 さらに、昨年来文化庁の京都移転が正式決定し、訪日客誘致に一層熱が帯びる。この4月には移転準備事務局が市内に店開きし、新生文化庁発足に向けた動きが本格化する。こうした追い風を受け、歴史文化資源に恵まれた地元は地域を挙げ早速2017年を「文化首都元年」と位置付け、芸術文化の都を旗印に観光キャンペーンをヒートアップさせている。この文化庁の移転話は一人京都の問題ではなく、全国各地の歴史や伝統、芸術文化の掘り起しと同時に世界に観光大国ニッポンをアピールする起爆剤になるとの期待が大きい。
 
 ただ、今の京都の場合、これは東京や大阪、他の地方都市にも当てはまると思うが、自然との共生が真の意味で維持されているかどうか、検証が必要だと思う。観光資源の豊富さという点では、間違いなく世界屈指の京都と自負できるだろう。自然が織りなす四季折々の景色や風情といった側面でも、京都の春は桜の名所が多く、夏ホトトギス、秋紅葉、冬の雪と日本の代表的な風景を1年中居ながらに楽しめ、訪日客にも大人気だ。一見、こうした情景は変わらないように見えるが、実態はどうか。
 
 最近、猟師で評判の千松信也さんと会う機会があった。きっかけは1冊の本「ぼくは猟師になった」との出合い、著者は千松さんだ。
 
 全国的に鹿やイノシシ、猿など野生動物による農作物や人間の被害は深刻化する一方で、京都も例外ではない。一説には国内で生息する野生の鹿は約300万頭、イノシシ90万頭といずれもなお急増中と推測される。京都市の山合に暮らす千松さんは現在42歳、大学院生時代に猟師の免許を取り、運送会社で働きながら「ククリワナ」の仕掛けでイノシシや鹿を捕獲する名人だ。家族や友人らと食べる分しか狩猟はしない。「一歩山の中に入れば、そこはすべての生き物にとって苛烈な戦場。共生とはそういう自然界の過酷さ、とりわけ人間が奪う命にまず思いを馳せ、畏敬の念と併せて山の恵み、恩恵に感謝の気持ちを持つことでは」と千松さん。自然のメカニズムを壊し、山林や里山を荒廃させたのは人間の側にあり、そういった問題が景観美を誇る身近な京都の山々にも起きている現実をどう見るか。
 
 日本文化の一番の特徴が自然との共生にあり、京都のまちをその観光モデルとすれば、いつの日か古都の表舞台で豊穣の棲家を失った野性動物たちの逆襲を受けかねないとは誰も言えないはず。今は世界で一番旅行したい都市の人気ランク2016(米国の有名旅行誌調査)で京都の3連覇ならず、1位から6位に順位を下げた原因が都市環境の悪化にあり、将来野生動物たちとの共生問題がそのネックにならないことを祈るのみだ。(ジャーナリスト 佐藤徳夫)