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[Columns]山村の挑戦に国も動く 環境警備隊から地域活性へ

 地域のほとんどが山間部といっても過言ではない、人口約1万人の和歌山県日高川町の挑戦に、地方行政や農林業の専門家らが注目している。環境警備隊。この、聞き馴れない日高川町独自の活動が、山村を変え始めている。
 
 人口減少が始まった日本。過疎化・高齢化は首都圏を除くすべての地域で顕在化し、とりわけ農山村地域では、もはや固定化し一方通行的に深化しているのが現実で、3町村が合併して誕生した日高川町も同じ状況だ。
 しかし、過疎化だからこそ残された自然は、ちょっとしたアイデアと努力で、地元を活性化し、魅力ある地域に育てることができる。その「ちょっとした」ことの一例が、環境警備隊だ。
 
 農林業の衰退で、自然環境は地域の人々にとって豊かではなくなっていた。シカ、サル、イノシシなどが里山を占拠。さらには人々が耕す農地にも縄張りを広げ、いわゆる獣害が蔓延した。そして農山村人口の高齢化と過疎化が追い打ちをかけ、農林地が放置されるという、悪循環。
 
 環境警備隊は、人間と獣の縄張りの接点だった「里山的バリア」を再生することで、この悪循環にくさびを打ち込むのが狙いだった。しかも、手法はいたって単純だ。猟銃の所持許可を持つ地元住民(猟友会メンバーら)で、禁猟期間に、人間の縄張りの周囲を定期的にパトロールする。それだけだ。
 
 「シカもサルもイノシシも賢い獣で、猟銃の(火薬の)臭いがすると、危険を察知して、あまり近づかない。そうすると自然の中に、人間が中心のエリア、獣たちが中心のエリアができる」と玉置俊久町長。それでも、簡単に餌にありつける人里に出てくるシカ、サル、イノシシなどは獣害防止という町当局のお墨付きで駆除できる。
 
 この警備隊活動が始まって短期間で地域に何が起きたか。まずは、農家による耕作が増えたり、盛んになった。自家消費用の農作物のあまりは、町内の道の駅などで販売され、都会からの買い物客などが訪れる。
 小遣い稼ぎにもなり、さんざん獣害に悩まされてきた高齢農家の作付けが活発になり、お年寄りが畑に戻った。つまり、高齢農家が元気になった。で、その最大の余波は「町内の1人当たりの高齢者医療費が減ったかもしれない」というのだ。
 
 町産業にもうま味が生まれた。駆除したシカやイノシシは自然の恵み。これを、「ジビエ工房紀州」という町営の獣肉解体所で精肉し、町内各所でジビエ料理として提供を始め、人気が上昇。こうした一連の取り組みに環境省や農水省も注目し、全国各地の農山村が見学に訪れるまでに成長している。
 
 現在は、駆除したシカ、イノシシを県内の焼き肉店で提供できないかと、県知事も含め、新たな可能性を模索している。また、町の中心を流れる日高川の清流で獲れるアユやアマゴの一夜干しを新名物とし売り出し中。山また山の町は風力発電の適地でもあり、この数年で大型の風力発電機が各所に設置され、固定資産税が増えた。それらを原資に町内小中学生の医療費無料化もすでに3年間継続している。

 要は、政治・行政と住民の連帯感が、山村全体で化学反応を起こしているのだ。今、日本の政治のありようが根本から問い直されているようだが、この山村の実態を見ていると、永田町経験度や知名度・人気度で語られる「政治」は、駆除すべき“猿”芝居でしかない。(田原護立)
 
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