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[Columns]常識の盲点から生まれた 「浮くっしょん」を学校の子供たちへ

 「空を飛ぶジェット機にさえ常備されているのに、なぜ、学校には常備されていなかったのだろう」。指摘されて初めて気づいた。もし、これがあれば、何百人という子供たちの命が助かったかもしれない。だから、即座に商品化した。
 アウトドアグッズの開発・販売で成長を続けている(株)モンベル(本社・大阪市)の創業者で会長の辰野勇氏は、「浮くっしょん」 の装着をみせながら、企業が社会にできる貢献の大きな可能性を訴えた。
 
 1995年1月の阪神大震災の際、被災地にあったモンベル店舗を拠点に、間髪をいれずに社員全員で被災者支援に乗り出した。アウトドア製品は、多くの場合、そのまま支援物資になる。阪神大震災の場合、火葬が間に合わず、放置されていた犠牲者の遺体にせめても寝袋をと準備したが、生き延びた被災者が極寒の避難地で震えている姿を目の当たりにして、その寝袋数千個を避難所に配布、企業だからこそ迅速に取り組める支援に奔走した。
 
 そして、今回の東日本大震災。被災地域のモンベル店舗のうち被害の軽微だった店舗を拠点に、企業だからできる戦略(ロジスティック)を練って、アウトドアグッズを中心にした物資と人員で、被災地支援を展開した。
 そんな支援活動のさなか、数十人の小学生が逃げ遅れて津波に飲み込まれた現場で、「遺体が発見された子供たちの死因の多くが、溺れて窒息したものだった。学校に救命胴衣があったら、沢山の子供らが助かったかもしれない」と耳にした。
 
 小学校に救命胴衣。ほとんどの人が思い当らなかった「常識に盲点」だったといえる。島国で地震大国の日本。海辺を含め大津波に襲われる可能性がある小中学校は内陸県を除くすべての都道府県にある。「地震がきたら避難」が先ずは第1だが、今回のように、万が一逃げ遅れた場合に備えて救命胴衣を常備しても不思議ではない。使用確率は民間航空機が事故で着水する確率と大差はないはずだ。
 普段は座布団(クッション)としてお尻に敷き、いざという時には救命胴衣となる商品を辰野さんはすぐにデザインし商品化した。名付けて「浮くっしょん」。すでに販売している。「普段から救命胴衣として常備するのは、どことなく敬遠されるかもしれないが、クッションならば抵抗は少ないはず」というのがアイデアの基本になった。もちろん、大人用もある。
 
 CSR(企業の社会責任)という考え方が浸透して久しいが、企業の社会貢献については、まだまだ社会の認知が進んでいない側面が指摘されると、辰野さんは話す。
「被災地の支援活動には、様々な側面があり、単に物資を送るだけではどうにもならない。必要な物資・人員を仕分けし、必要なモノと人を必要な被災者に届けるという仕組みが必要になる。その意味では、企業はモノと人と仕組みを持った組織であり、もっともっと企業の支援活動を社会全体で生かすようにしてほしい」。
 
 東北の被災地は厳しい冬を迎えた。原発事故で古里に帰れない人々も含め、本当の社会支援が今こそ求められる。国や地方自治体などの行政支援はもとより、個々人のみならず企業を含めた社会全体の「救援力」が試されているのではないだろうか。それは、阪神大震災を機に芽生えた「新たな救援の文化」(野田正彰・関学大教授)の実態が問われることでもある。(田原護立)
 
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