どの表現ジャンルにおいても「東京の文化一極集中」は問題視されているが、演劇もその例外ではない。しかし最近になって、全国レベルで注目を浴びながらも、東京ではなくあえてローカルなエリアに本拠地を据える表現者が、わずかではあるが増えてきている。鳥取市鹿野町の専用劇場を拠点に活動する「鳥の劇場」もその1つ。昨年実施した演劇祭では、この地域では異例となる1,500名以上もの観客を動員。間違いなく鳥取、いや中国地方で一番注目を集めている劇団だ。

どの表現ジャンルにおいても「東京の文化一極集中」は問題視されているが、演劇もその例外ではない。しかし最近になって、全国レベルで注目を浴びながらも、東京ではなくあえてローカルなエリアに本拠地を据える表現者が、わずかではあるが増えてきている。鳥取市鹿野町の専用劇場を拠点に活動する「鳥の劇場」もその1つ。昨年実施した演劇祭では、この地域では異例となる1,500名以上もの観客を動員。間違いなく鳥取、いや中国地方で一番注目を集めている劇団だ。
「鳥の劇場」を主宰する演出家・中島諒人(まこと)は鳥取県出身。東京の大学に進学してから演劇活動を始め、演出家コンクールで最優秀賞を受賞するなど、順調にキャリアを積んでいた。しかしその状況と反比例するかのように、東京で演劇活動を行うことに限界を感じつつあったという。「自分たちが一生懸命やっている創作活動が、周辺地域の住民たちとは完全に切り離されていることに違和感を覚え始めたんです。それで次第に、芝居作りを通じて地域に貢献するという活動がしたい、と思うようになりました」。この理想を実現するには、都市部の一般の劇団のように公演ごとに異なる場所を借りるよりも、自分たちの活動の拠点となる劇場を設ける方が、その周辺地域により根付きやすくなる。しかも中島には「行政のトップダウンの形で作るのではなく、徹底的に草の根から始めることで、地域に溶け込んでいきたい」という考えがあった。そこで故郷の鳥取県に戻って見つけたのが、鳥取市街から車で約30分の城下町・鹿野町の中心部にある廃校。「最初は体育館だけを、稽古のために2ヶ月借りました。その間いろんな芝居を上演するうちに、近隣の人から“頑張ってるみたいだし、ずっと貸したら?”という声が挙がったんです」。まさに中島の「小さな活動から地域の人に認めてもらう」というモデルに添った形で、2006年から劇場および劇団としての活動を、本格的に開始することになる。
「鳥の劇場」が上演する芝居の方針は「わかりやすい」「深い」「一緒に感じ、考える」。しかし今まで上演した戯曲を見ると、チェーホフや三島由紀夫など、世間的にはむしろ「難解」と思われる作品ぞろいだ。「“演劇はわかりづらい”とよく言われるけど、ほんの100年前までは娯楽の中心にあって、みんながチェーホフとかを普通に観ていたわけですよ。だから演じる僕たちが作品の本質的な良さを失わせず、ちゃんと物語を積み上げた形でお客さんに届ければ、全く理解不能とは思われないはず」。とはいえ地元の観客には「たいてい“わからない”と言われてしまう(笑)」そうだが、一方で「一緒に感じ、考える」という狙いは着実に根付いている。「ある不条理劇の作家の作品を上演した時に、それまでほとんど演劇を観てなかったと思われる年配の女性の方が、観劇後に息子さんと作品について語り合ったという話をしてくれて、それはすごく嬉しかった。僕が名作と呼ばれる戯曲をやる理由の1つは、そういう風に世代を超えていろんな感想を話し合う力があるからなんです」。それらの名作を、洗練さと泥臭さが交じった独特のビジュアルで見せる彼らの芝居は、鳥取だけでなく東京や中国などでも上演され、好評を博している。その評価を受けてか、あるメジャーな観光ガイド本で「鳥の劇場」が鳥取の“名所”として紹介された。一般的な観光ガイドで席数200名程度の小劇場が取り上げられるのは、かなり異例のことだ。
「政治や経済の分野では、すでに東京中心だった流れがいろいろと破綻し、自分たちの地域のことは自分たちで考えなければならない時代になってきている。今こそ、演劇を始めとする芸術を通して、自分で何かを考えたり創ったりする力…「創造力」を持つ人材を育てることが必要。そのためにも“文化”という精神的なインフラを整えて、県民全体の創造力のレベルを上げる努力をすれば、鳥取県の未来は明るくなると思うんです」と中島。そのためにはまず、行政側の文化政策の意識を変えなければならないという。「基本的に県や市が行う芸術活動の補助は、芸術家やその周辺の愛好家への支援。でも本当にお金を投じる先は、逆に普段全く芸術に触れることがない人々に向けてなんです。たとえば県主導の芸術学校を作って、一般の人たちにも楽器を習ったり彫刻を作ることの楽しさを知ってもらう。こういう楽しみがあるだけで人々の生活は今までと少し変わるだろうし、ひいては街全体も変化するはず。そのためには、観ることと創ることの両面で芸術に触れることが可能な“劇場”という拠点が、やはり地域には必要という話になってくるんです。それに僕たちが作品を創って、それを東京経由ではなく、直接世界に発信して評価されれば“東京に頼らなくても、自分たちの力だけでもできるんだ”という自信につなげられるはず。我々はその先行事例になりたいんです」。
中島が将来的な目標にしているのは、「鳥の劇場」の公共化だという。たとえばヨーロッパでは、個人運営の劇場の活動が市や国から認められ、翌年から公立劇場として公の予算で運営されるという例が珍しくない。「正直、経営面では大変なのですが、少しずつ実績を作っていくことで、県や市は地域貢献のために彼らと手を組むべきだ! という流れを作っていきたいですね」と中島は笑う。かつて「ナント三大陸映画祭」などで有名なフランスの地方都市・ナントは、80年代の産業の衰退によって、一度は活力を失っていた。しかし地域が主導となって「文化による街おこし」を行ったことで息を吹き返し、2003年には「フランスでもっとも住みよい街」にまで選ばれている。中島および「鳥の劇場」が地域と密着した地道な活動を続け、それが県や市の事業として認められる時が来れば、それは鳥取県をナントのような、文化力による街の活性化へと導くことになるのかもしれない。
演出家。大学在学中より演劇活動を開始、卒業後東京を拠点に劇団を主宰。2003年利賀演出家コンクールで最優秀演出家賞受賞。2004年から1年半、静岡県舞台芸術センターに所属。2006年より鳥取に劇団の拠点を移し、「鳥の劇場」をスタート。二千年以上の歴史を持つ文化装置=演劇の本来の力を通じて、一般社会の中に演劇の居場所を作り、その素晴らしさ・必要性が広く認識されることを目指す。
鳥の劇場 http://www.birdtheatre.org/
演劇情報誌JAMCi(じゃむち)、エルマガジン編集部を経て、フリーのエディター&ライターに。関西の演劇カルチャーからグルメネタまで、幅広いジャンルで執筆活動を行っている。
現在「Meets Regional」「演劇ぶっく」で、演劇人のインタビューページを連載中。
個人サイト「姐日記」 http://www.geocities.jp/yoshinaga_ane/